T-BOX 3D printing lab

東京大学:テクノロジーと建築の融合

学生の創造的なイノベーションの道を開く3Dプリンター

建築教育関係

3Dプリンターの登場は、製造業や建設業、自動車、航空宇宙など、多くの産業に新たな変化をもたらしています。これまで目新しいものやニッチなソリューションと見られていたものが、「ラピッドプロトタイピング」から「積層造形」へと移行し、成熟した技術になっています。

現在、3Dプリンターは世界中の大学に組み込まれ、学生や教員が革新的な建築を研究し、「未来の暮らし」の新しい基準を作り出すための技術ソリューションとなっています。最近では、東京大学のSEKISUI HOUSE – KUMA LAB「T-BOX」で、建築学科の研究要件を満たすためにUltimakerが採用され、学生がデザインの3Dモデリングデータを用意してプロトタイプをプリントし、設計演習として打ち合わせに使用することができるようになりました。T-BOXは2021年10月に利用開始しました。

SEKISUI HOUSE – KUMA LAB所長兼特任講師の平野利樹氏に、学生が日々の大学生活でどのように3Dプリンティングを活用しているのか、また、その実現にUltimakerがどう貢献したのかを伺いました。

Toshiki Hirano with the 3D printers in the lab
平野利樹氏(東京大学SEKISUI HOUSE – KUMA LAB所長兼特任講師)

T-BOXはどのようにして始まったのか

T-BOXプロジェクトは、建築家の隈研吾氏によって、主にデジタル技術と建築の結び付きを研究する目的で2020年6月に始まり、デジタルファブリケーション用の各種機械を備えた作業場が作られました。「T-BOXには、さまざまな意味が込められています」と、平野氏はプロジェクト名について語ります。「Tは、東京大学のTokyo、テクノロジー(Technology)、道具箱(Toolbox)のTを指しています。設立以来、私たちはT-BOXをさまざまなデジタルファブリケーション機器を搭載した”道具箱”として捉えています」。

クリエイティブな人材を育む施設
テクノロジーを駆使した建築の未来を研究する東京大学に、「暮らしの未来」を探求する積水ハウスがプロジェクト開始のための寄贈を行いました。このコラボレーションは、相互補完的な機能連携により、T-BOXの将来の人材育成に役立てることを主な目的としています。

かつて、建築学科にはデジタルファブリケーションツールを備えた制作施設がありませんでした。学生たちには、自分で3Dプリンターを購入するか、従来の方法である手作業で建築模型を作るかの選択肢しかありませんでした。現在、建築学科の学生は、T-BOXを利用することで簡単にプロトタイプを作成でき、プレゼンテーションに利用することができるようになっています。「学生たちがこの施設を利用することで、自身の技術を高めたり、ものづくりやデジタルファブリケーションを学ぶなどの別の道を模索したりすることができれば、と考えています」と、平野氏は言います。「実は、T-BOXは建築学科の学生だけのものではありません。誰でも自由に施設を見学し、Ultimakerの3Dプリンターを利用することができます。どなたでも歓迎しています。クリエイティブな人材を育む施設として、未来に向けたより良い環境となるように、これからもT-BOXの運営を行っていきます」。

T-BOXの内側を探る

現在、T-BOXには6台のUltimaker 3Dプリンターがあります。キャンパス内に1つの研究室に複数の3Dプリンターがある施設は他にないため、デザイナーにとって重要な施設になると平野氏は考えています。

Ultimakerを選んだ理由について、平野氏は次のようにコメントしています。「デジタルファブリケーションの普及を受け、海外のデジタルファブリケーション施設を視察したのですが、アメリカン大学の建築学科に訪問した際、そこでUltimaker 3Dプリンターを目にしました。ほとんどの学生がUltimaker製品の品質を熟知しており、使いやすいと言う声をよく聞きます」。

「Ultimakerは、優れたプリント精度、スピード、高い反応性に加え、さまざまなフィラメントを扱うことができるため、良い選択だと思います。データを入力すれば、すぐにコンセプトのプリントを開始できるため、専門的な予備知識がなくても、直感的に作品を制作することができます。また、高度な調整が必要な場合にも、必要なパラメータを簡単に操作することができます」と、同氏は付け加えます。

ここ10年の建築における3Dプリンターの採用について聞かれると、平野氏は次のように認めます。「正直なところ、私の場合は3Dプリンターを使う必要性がない限りは3Dプリンターを使うことはありませんでした。これまで以上にデジタル化が進む中、Ultimaker製3Dプリンターをはじめとする3Dプリンターは、世界中の多くの産業においてその重要性を増しています。間違いなく、3Dプリンターは建築家や学生の設計サイクルの一部になってきていると思います」。

Toshiki Hirano holding a 3D printed architectural model
3Dプリントした建築模型の1つを見せる平野利樹氏

制約にとらわれない

現在「T-BOX」では白色PLAを使用していますが、平野氏と学生たちは、Ultimakerとサードパーティ製両方のフィラメントを幅広く活用することで広がる可能性の検討をすでに進めています。「ABS材料の場合、さまざまな材料を使用して建築構造の接合部を3分の1の大きさにプリントし、実際に使うことを考えています。さまざまな材料をさまざまな用途で使うことにぜひともチャレンジしたいと思っています」と、平野氏は言います。

模型作りは建築におけるプロセスの一部として常にあり、従来、学生は模型をスチレンボードなどで手づくりしていましたが、その方法では単純な形状に限定されていました。「アイデアを制約する従来の常識からの脱却を目指しています」と平野氏は言います。「3Dプリンターを使って設計に革新を起こし、自由自在にアイデアを成果物に反映させられるようになればと考えています。形の複雑さにとらわれないようにしていきたいです」。

「3Dプリンターは単に模型を作るためのツールであるだけでなく、建築やデザインについて自由に考えることができるツールでもあるのです」。

デジタルファブリケーション設備の数々

T-BOXでは、3Dプリンターだけでなく、レーザーカッターやCNC加工機などのデジタルファブリケーション機器を導入し、あらゆるリソースや技術、手法を組み合わせて価値あるものを作り上げることを目指しています。

平野氏によると、多くのデジタルファブリケーション施設では、機器の使い方を学生に教えるのに苦労していると言います。「T-BOXでは、できるだけ学生の皆さんに自由に、自主的に使ってもらいたいと考えています。安全面や使用上の最低限のガイドラインは設けていますが、スタッフに頼らずとも使えるようになってほしいと思っています。学生の皆さんには可能性を自ら探求することを求めていますが、疑問を解消できる場にもしていければと思います。オンライン予約したら、あとは行くだけ。そんな場所を目指しています」。

T-BOXは、建築、教育、積層造形業界のベストプラクティスの一例として注目されています。T-BOXの事例について、Ultimaker CEOのJürgen von Hollenは、次のようにコメントしています。「東京大学のような先進的な教育機関が、3Dプリンティングの重要性を認識し、プロの世界に入ったときに最大限の影響力を発揮できるよう、学生の創造的なインスピレーションを最大限に引き出す取り組みを行っていることは、非常に素晴らしいことだと思います」。

T-BOXの成果物

T-BOXで特に目を引く成果物は、2021年にロンドンで開催されたデザインビエンナーレ展で展示されたインスタレーション作品を1/10サイズで3Dプリントしたモデルです。本作品は6つの部分に分かれており、それぞれを個別にプリントし、組み合わせて使用することができます。本作品は、東京とロンドンの街中にあるさまざまなものを3Dスキャンし、3Dデータ化したものです。

たとえば、東京にあるものとしては、招き猫、雷門、セミ、自動販売機、たい焼き、ドーナツなどがあります。ロンドンの場合は、ロンドン地下鉄の座席、郵便箱、パブなど、さまざまな都市要素を3Dスキャンして収集し、組み合わせています。実際の作品は、CNCで削り出した発泡スチロールのブロックを型として使って和紙が貼り付けてあり、最終的にロンドンに運ばれて展示会に出品されました。

「この作品は、3Dでスキャンした形状が複雑なため、プリントするのはかなり難しいと思っていました。Ultimakerを使用することで、細かいディテールがあっても、きれいに複雑な形状のままプリントできました。

3D printed model
ロンドンビエンナーレの展示物を1/10サイズで3Dプリントしたモデル

困難が伴うプリントであったかという質問に対し、平野氏は次のように答えています。「挑戦しがいのあることではありましたね。本作のスキャン元データは約1テラバイトで、縮小しても1パネルが約300MBです。スライス時にエラーが出るのではと心配していましたが、Ultimaker Curaに入れてスライスしても、フリーズすることはありませんでした。このことは、細部にこだわる重要なプロジェクトにUltimakerが最適であることを裏付けるものです」。

「制御ソフトウェアは、アウトプットの品質を確保する上で大きな役割を果たしています。さまざまなデジタルファブリケーション機器に触れていると、中には複雑すぎて使いこなせないものがあり、そのことを憂慮していました。Ultimaker Curaは、シンプルかつ直感的に操作できるデバイスにより、そうした複雑さを解消しています。あらかじめパラメータが設定されているので、初心者でも簡単に使い方を覚えることができます。ある程度慣れてくれば、細かいパラメータ設定も思いのままなので、対応力も非常に高いです」。

「全体として、Ultimakerはさまざまなスキルや経験レベルに対応するように設計されていると言えるでしょう。初めて使う人にも、日常的に使う必要がある人にも、すべての人に最適な3Dプリンターシステムだと思います」。

Ultimaker 2+ Connect and Ultimaker S3 printers
東京大学の研究施設「T-BOX」に備えられたUltimaker 2+ ConnectプリンターとUltimaker S3プリンター

これからの展望

最後に、T-BOXのこれからについてお聞きしました。まず、他にどのような人にとって手助けになると思うか伺ったところ、平野氏は次のように答えています。

「T-BOXは、どのような進路の人であっても、すべての人にメリットをもたらす施設だと私は思っています。ですが、特に、コンクリート型枠の補強が必要な大学院生には、この施設が非常に役に立つと思っています。また、複雑な形状の金型を設計し、小型化に挑戦することも可能です。これを利用して、小さな家具や小物を設計して作ることもできます。可能性は無限大です」。

予算とスペースに問題がなければ数台追加したい、

また、他のツールについても、予算とスペースに問題がなければ、いくつか追加する予定だと平野氏は言います。「ロボットアームと、より大きなプロジェクトに対応できる大型3Dプリンターを追加したいと計画しています。ただ、今のところは、今あるもので十分だと考えています。世界標準のデジタルファブリケーション機器をようやく本学に導入することができ、学生や教員が従来の枠を越えた作業を行えるサポート体制を実現できたと感じています」。

「次は、今ある3Dプリンターを使い、制作の革新を通して、デジタルファブリケーションの価値を建築学科全体に伝えていきたいです。今後も、Ultimaker製品の新しい使い方や手法を模索し、学生を後押ししていきたいと思います」。

Toshiki Hirano in the T-BOX lab
東京大学の研究施設「T-BOX」と平野利樹氏

また、学生を第一に考えつつも、何らかの形で施設を一般に開放することも考えていると平野氏は言います。「各機械を段階的に一般利用できるようにすることを検討しています。3Dプリンターを誰でも使えるようにするには準備が必要です。新しく創造的なアイデアを探求したい人たちとこの経験をぜひとも共有したいと思います」。

教育における3Dプリンティングの詳細

教育現場での3Dプリンティングの事例をさらに知りたい方、Ultimakerのソリューションにより学生をサポートする方法について詳しく知りたい方向けに、教育関係者向けの使用事例およびリソースをご用意しています。

教育における3Dプリンティング

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